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第11章 桜を見に行こう 6/7

last update Last Updated: 2025-05-20 18:00:33

「少年、疲れただろう。ゆっくり休んでくれたまえ」

 温泉街にある小さな旅館の前で、深雪〈みゆき〉がそう言った。

「やっと着いたか。遊兎〈ゆうと〉、運転大義であった」

「悠兄〈ゆうにい〉ちゃんお疲れ」

 車から降りた一行が、荷物を持って玄関に入ると、坂本が迎えてくれた。

「修司〈しゅうじ〉、今夜は世話になるよ」

「ああ、何でも言ってくれ。さあ、どうぞお入りください。まずはお部屋にご案内します」

「お世話になりまーす」

 * * *

 仲居に案内された部屋は、6人部屋と4人部屋だった。

「えーっ、悠兄ちゃんは隣なのー?」

「当たり前だ。これでも俺は男だからな」

「そんな……悠人〈ゆうと〉さん、見知らぬ街で一人寂しく……分かりました。寂しくならないよう、夜這いにうかがいます」

「肉布団、自重しろ」

「仲居さん、お風呂はもう入れますか」

「はい。お茶を飲んで一息つかれましたら、是非お入りください。夜は1時まで、朝は7時から入れます」

「ちなみにここの効能は?」

 弥生〈やよい〉が興味深々な顔で聞く。

「ここの温泉は、美肌効果に特に優れています。皆さんお綺麗ですが、温泉に入られましたら、その美貌に更に磨きがかかりますよ」

「仲居。その、なんだ、胸の……いや、ホルモン促進効果はあるのか」

「ホルモン……ああはい、肌に潤いを与えて女を磨けば、きっと効果抜群ですよ」

「そ、そうか、あい分かった。早速試すとしよう」

「曲がり角の肌にも効きますよね!」

 菜々美〈ななみ〉が続く。

「おいおい乙女たち、仲居さんを困らせるんじゃないよ。大丈夫、君らみんな、そのままでも十分魅力的だよ」

 深雪の笑いに仲居もつられ、笑顔で退室していった。その後お茶を飲んで一息つくと、5人は早速浴

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